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福岡家庭裁判所 昭和43年(少)1391号 決定 1968年6月08日

少年 Y・A(昭三〇・三・三〇生)

主文

少年を教護院に送致する。

本件強制措置申請事件(昭和四三年少第一三九二号)を福岡県中央児童相談所長に送致し、少年を昭和四三年六月八日から向う三ヵ月を限度として行動の自由を制限する設備のある寮舎に収容することを許可する。

理由

(触法事実および適条)

別紙記載のとおり。

なお、本件触法保護事件(昭和四三年少第一三九一号)の送致書記載の触法事実中、少年が

1  昭和四二年八月○日、熊本市新町クリニング店において、氏名不詳者所有の男物腕時計一個を窃取し、

2  同月○○日、Aと共謀の上福岡県○○郡○○○町○○○○△川△水方において、同人所有の山口号自転車一台を窃取し、

3  同月△△日、Aと共謀の上、同町△△△△○田○三方において、同人所有の河村号自転車一台を窃取し、

4  同月××日、Aと共謀の上、同町××××○藤○明方において、同人所有の富士号自転車一台を窃取し、

5  昭和四三年一月○○日、B、Cと共謀の上、福岡県筑紫郡○○町○○×××の×仲、○八○子方において、同人所有の現金一、六〇〇円を窃取し、

6  同月○日、Bと共謀の上、福岡市○○町○○番地○堀○男方において、同人保管の男物指輪四個、女物指輪一個、ペンダント、ネクタイピン各一個を窃取し、

7  同年二月○日、Cと共謀の上、同市△△町○丁目○○番地西○寛方において、同人保管のネツクレス、女物腕時計、指輪、カメラ各一個を窃取し、

たとの事実については、これらの各事実を認めるに足るだけの証拠が存しないので、いずれも非行なしと判断する。

(教護院送致の理由)

本件触法事実は少年が昭和四二年二月九日(少年の小学六年在学時)を初回として、以後昭和四三年五月一〇日(少年の中学二年在学時)までの約一年三ヵ月間に一二回に亘つて福岡県内の各警察署から福岡県中央児童相談所長に通告された非行内容であるが、少年は年少であるにもかかわらず、共犯者との本件触法行為において追従的というより、率先実行犯的役割を果していることが認められる。少年のかかる多数回の非行反復は、母親が少年を懐妊した時以来病気勝となつたのと、少年も体が脆弱で小学三年時以降身体の不調を訴えていたことから少年に対する母親の監護が溺愛過庇護に流れ、少年の勝手気儘な生活態度を許容し、父親がこれを放任したことと、他面地域環境の不良による非行集団との結びつきに基因するものと思われる。しかして少年鑑別所の少年の心身鑑別の結果によると、少年は知能は良域にあつて、やればできるだけの能力があるが、勉学を嫌い怠学のため学業不振であり、我儘未熟で欲しいものはすぐ手に入れようとし、欲求抑止力に乏しい上に、自己の行動について内省することができない性格特性が認められる。ところで少年は中央児童相談所長に通告されたこと一二回におよびその間に「非行を重ねない」旨の父親との連署の誓約書をも差入れているが、全然改悛するところがなく、怠学が多く処々を非行集団と共に浮浪徘徊して本件触法行為を重ねたばかりでなく、現在も少年時代は二度とないからやりたいことをやるという生活態度を保持し、本件非行に対する反省に乏しいうえに○○中学校(少年の在籍中学校)教諭○田○喜の当審判廷における供述と、送致書添付資料中の同中学校長の筑紫野警察署長宛申立書によると、少年がたまたま中学校へ登校しても(少年の中学一年時の出席日数八一日、欠席日数一六一日、遅刻早退二六日)他の生徒に悪戯したり非行に誘つたりして他の生徒に対する悪影響は無視し難いものがあり、学校当局は少年に対する補導の意欲をなくし、少年の教護院入所を望んでいる現状であることが認められる。

一方、保護者もまた、少年に対する保護の方法につき反省するところは少く児童福祉司の少年に対する指導に協力しようとはせず従来通り少年の勝手放縦な生活態度を黙認し、かえつて少年の兄姉妹に問題行動がみられないことから少年に対する躾そのものには非はないとし本件触法行為は地域環境とりわけ共犯者の不良に基因するかの如き他罰的思考で、責任を他に転嫁する態度がみられ、福岡県中央児童相談所長が少年を教護院に措置入院させる手続をとることを強く嫌忌していることが認められる。

以上のような少年の累非行性、その性格ならびに行動傾向と保護者の少年に対する保護能力の現状では、最早や在宅保護によつて少年の健全な育成は期し難いので、少年を教護院に収容して基本的な生活訓練を施すとともに、教科の習得をなさしめるのが相当である。

(強制措置の必要性)

福岡県中央児童相談所長の強制措置申請の理由は要するに、少年は過去一〇数回に亘つて司法警察員から児童相談所長に対する通告を受けたにかかわらず、児童福祉司の指導に従わず触法行為を累行し、昭和四三年五月九日、中央児童相談所において一時保護を受けるや職員の目をかすめて無断退所し、佐賀県鳥栖方面を徘徊し再び警察署で保護される始末であり、一方少年の父兄も少年を教護院に入所せしめることを強く嫌忌している現状では単に教護院送致となつても、教護院を逃走し触法行為を重ねる危険が大きく、かくては教護院での教護の目的を達することができないので、少くとも三ヵ月の短期間でも強制措置をとる必要があるというのである。

よつて考えるに少年の累非行性およびその性格などは前項において述べた通りであるが、少年は昭和四三年五月一〇日、筑紫野警察署長より福岡県中央児童相談所長に任意身柄付で通告され、一時保護を受けた折も、職員の監視の目を盗んで逃走し、佐賀県鳥栖方面を徘徊するに至つた事実が認められ、少年が教護院に安定することは到底期待し得ないばかりでなく父兄が前項に述べた通りこれまた少年を教護院に入所せしめることに反情を抱いていて、少年が教護院から無断退去することに強い誘引を果すであろうことから考えれば、少年を教護院に送致すると同時に少年の行動の自由を制限する強制措置を講じない限り、少年の教護院無断退去、触法行為の累行並びに在籍中学校の他生徒に対する悪影響を防ぎ得ず、少年を教護院に送致した目的を達すことも極めて至難であることは明らかである。そうだとすると少年の福祉を全うするためにも以上のような少年が教護院内での生活にそれなりの順応を示し、強制措置を講ずることなくして教護をなしうるに至るまでの期間、少年の行動の自由を制限しうる設備のある寮舎に収容することもやむを得ないものというべきであり、その期間は本件申請どおり少くとも三ヵ月を下らぬものと考えられる。

(法令の適用)

以上の理由により、少年法第二四条第一項第二号を適用して、少年を教護院に送致し、同法第一八条第二項により主文第二項のように決定する。

(裁判官 松島茂敏)

別紙 編省略(注 別紙記載の少年の非行事実の概要は、昭和四二年二月から同年八月までの間単独または共犯にて五三回にわたる窃盗事件および傷害事件一件を犯したものである。)

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